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COLUMN 2019.07.01 UP

諦めることからはじめたキャリア vol.1

LENS ASSOCIATES inc.
前田 真弓

私のキャリアは諦めから始まったといっても過言ではない。当時、超就職氷河期と言われる中、新卒の学生にありがちな最大手や誰もが知っている企業をひたすら受ける、という行動に結果が追い付くはずもなく、あえなく撃沈。その方法はそうそうに諦め、何とか内定をもらった旅行会社に入社。結果的にはそれが今に繋がっていると思っている。業界一位の企業だったら自分らしいカラーを出すことも余地も許可も与えられなかっただろう。

最初に配属された地方店舗では、新卒であっても先輩と同じような数字や結果を求められた。まずは、マニュアル通りに話すことを推奨された。しかし、それは自分のことばではない。同期はその方法でうまくいっている人もいたし、それを実践できる素直さや人柄もあったと思う。ただ、私は自分の中から出てきたことばで話したかった。話す内容が決まっていたほうが楽、というより窮屈、始終いつも笑顔を張り付けられるタイプではない。正攻法でお客さんを集めることを諦めた。
そもそも私は話し上手ではない。ただ波長が合えば、割と話せた。お客さんと店員という関係より、カウンター越しでも時にお互い沈黙もあるような関係。接客途中でも席を外し、用が合ったら声をかけてもらう。それを見ていた支店長は心配そうに私を見ていた。クレームが発生しているのではないか、商品のことが話せていないのではないかと、いつも気にかけてくれた。ただその余白のある接客スタイルが一番私はしっくりきていた。一方、そのスタイルはお客さんに考える余地を与えることになり、その場で成約しない。社内ではそのやり方を何度も注意された。クロージングトークを何度も叩きこまれた。私のやり方が周囲からは嫌悪感を持たれていることは周囲に流れる空気で理解していた。ただ、そのやり方を続けていくうちに、後日お客さんが私の名刺を持って指名して予約してくれるようになった。そして、そのお客さんが別のお客さんを連れてきて紹介してくれるようになった。社内での疎外感、一方でお客さんと築く小さな成功体験を積む日々の中で、私はさらに自分なりの方法でお客さんを獲得することを決めた。

当時、書店などで流行っていた「手書きのポップ」。

たった数枚のポップが私のキャリアを作る手がかりとなった。徐々にではあったが、私が書いたポップの商品は売れていくようになった。ポップを書くために、本社にいる企画担当者に電話をして、この商品の何が売りなのか、どこが強みなのか、他社とは何が違うのか、時には担当者さえ考えていない質問をして、具体的かつ限られた言葉で端的に文字に起こせるまでヒアリングをした。ただ、その当時、新卒はとんちんかんな質問が多いので、新卒社員は本社に電話をしていけないという社内ルールがあり、いつも先輩にお願いして本社に電話をかけてもらっていた。先輩の中にはそれをくだらない、面白くないと思っていた人もいた。そりゃそうだろう。いきなり入ってきた新卒がもっと商品について聞きたいから本社に電話をしてほしい、と頼みに来るのだ。電話する前に、先輩は商品の売りを口頭で私に伝えてくれるのだが、どうにも納得感がない。直接、企画担当者に聞きたいという欲求のほうが勝っていた。電話をしてもらうために何度頭を下げただろうか。

企画した本人の意図や商品を作った背景などを聞くにつれ、商品への理解度が格段に高まり、納得感を持ってポップが書けた。そして、その商品の本当の良さを店舗内で一番知っているのは私になった。ポップを見てその商品をもっと知りたいというお客さんが来たら、私に担当が回ってくる、という循環が店舗の中で生まれた。企画担当者の代弁者となって話せるので、お客さんも納得感があり、課題だったその場での成約数もどんどん上がっていった。自分から行かなくてもポップがあるだけで予約数があがっていく、そんな一見、順風満帆に見えるキャリアのスタート。あることをきっかけに仕事の意味を考えるようになる。〈続く〉

PROFILE

STLONGpress編集長。旅行会社で海外ツアー企画職、結婚情報誌の編集、人材紹介でキャリアアドバイザー等を経て現職。趣味は国内旅行。プライベートでは小学生の双子の母。