INTERVIEW 2025.02.27 UP

子どもたちとつくる新しい経済のカタチ。おむすび通貨が未来の価値観をつくる。

一般社団法人ユメ・フルサト
吉田大韋

年間15万人もの小学生が参加する人気イベント、こども夢の商店街。小学生が自分のお店を開いたり、こども夢の商店街の運営に携わるオシゴトに挑戦したりしながら「働くことの楽しさ・難しさ」を体験できる催しです。

こども夢の商店街で仕事をした子どもたちは、その対価としてオリジナル通貨「おむすび通貨」を獲得でき、手にしたおむすび通貨はこども夢の商店街での買い物に利用できるほか、提携している地域のお店でも使用することが可能です。

子どもたちが楽しみながら働くことの楽しさや大変さを学び、将来の職業選択や社会性を身につけられるこども夢の商店街。子どもたちの経済感覚やコミュニケーション能力、創造性を育むとともに、地域の活性化にもつなげています。

こども夢の商店街がスタートしたのは2012年のこと。名古屋で小さくスタートしたこのイベントは、今や全国各地で毎週開催されるまでに成長しました。

その運営を手掛けているのは、一般社団法人ユメ・フルサト代表理事 吉田大韋さん。おむすび通貨を考案した背景や、そこから生まれたこども夢の商店街への思いについて聞きました。

一般社団法人ユメ・フルサト 代表理事 吉田大韋さん

 

「お金」によって生まれた社会問題を「新しいお金」で解決したい

ーーまずは、「おむすび通貨」が生まれた背景を教えてください。

おむすび通貨をリリースしたのは2011年のこと。新しい通貨をつくりたいと思ったきっかけは、現代の市場経済におけるさまざまな社会問題の根底に「お金」があるという気づきからでした。

お金ってもともと、交換手段として生まれたものなんです。でも、価値が永久に保存できるということで、どうしても貯め込む方向に向かってしまう。お弁当は明日になったら食べられなくなるし、車も家も10年経てば価値は下がる。世の中のあらゆるものの価値は時間とともに変化するのに、お金の価値は変わりづらい。

だから、人は交換することに躊躇するんですよね。例えば今「これが欲しい!」と思っても、次の瞬間には「待てよ、今ここに100万ある。このまま使わずに置いておけばずっと100万だけど、買おうとしてる『モノ』の価値は、10年後には5万円になってしまう」と考えて、買わないという選択を取る。もちろんいちいちみんなそこまで厳密に考えているわけではないですけどね、「お金がもったいない」という思考の背景にはこういった考えがベースになっています。

でも、これって本来のお金の目的である「交換」を妨げてしまってるんです。先ほども言ったように、お金は交換手段として生まれたものなのに、価値保存機能の力が強すぎる。つまり「交換する」という機能と両立していないんです。保存が無期限にできると、溜め込みたくなる。溜め込むということは使わないわけだから、交換が停滞する。今の日本がまさにそうなっています。

このバランスを取るためには、お金が持つ保存機能をちょっと弱くする必要があります。これはずっと昔から提唱されている考え方なんですが、すでに貨幣が流通している現代において実現するのは難しい。なにかいいやり方はないかなと考えあぐねて誕生したのが「おむすび通貨」です。

おむすび通貨はもともと、地域通貨のような、特定のコミュニティにおける運用を想定していました。おむすび通貨の単位は、1むすび50円。おむすび通貨を持っている人は提携店で現金と同じように使用できますが、有効期限は発行から6ヶ月です。提携店は、期限が切れたおむすび通貨と提携農家のお米とを交換でき、農家さんへは、事務局から適正価格をお支払いする、という仕組みです。

 

この仕組みによって農家さんは通貨を現金に換えることができ、地域の米の地産地消も促進される。価値が減っていく通貨を流通させることによって地域活性化につなげられないだろうか、というのがおむすび通貨の最初のスタートでした。

アイデアの段階から賛同してくれる人があらわれ、幸運にも、愛知県豊田市でおむすび通貨の運用にトライしてみましょうかという話になりました。そのタイミングでなぜか経済誌が取材をしにきてくれて、その記事がヤフーのトップニュースになったんです。

当時私は弁理士の仕事をしていたのですが、会社の同僚から「吉田さん、ヤフーのトップニュースになってますよ」と言われたのを覚えています。それから電話が鳴りっぱなしで、テレビ、新聞、ラジオの取材が次々と入ってきた。実際にはまだ何も始めていないのに(笑)

注目されたことは単純にうれしかったけど、同時に「これはちゃんとやらなきゃいけないな」という責任も感じました。自分が長年感じていた違和感を解消するには、おむすび通貨を広めるしかない。完全ボランティアになることはわかっていましたが、とにかくやれることは全部やろうと決意した瞬間でした。

青空マーケットの小さな参加者から生まれた「こども夢の商店街」

ーーそのタイミングではまだ「こども夢の商店街」は誕生していないんですね。

そうなんです。まずは2010年からおむすび通貨の運用を豊田市でスタートしたのですが、最初は全然広がりませんでした。そこで、おむすび通貨の利用者を増やすための試みとして、おむすび通貨しか使えない青空マーケットを開催することにしました。当初は地域の大人のみなさんを対象に考えていたのですが、あるとき「子どもも出店していいですか」と問い合わせがあり快諾したところ、小学生の子がお店を出してくれて、手作りの商品を一生懸命売っていたんです。その姿がものすごく素敵で、おむすび通貨と子どもの社会体験をつなげるアイデアを思いつきました。それが「こども夢の商店街」です。

子どもだけのイベントを開催するにあたっては、参加の間口を広げるため、自分の商品やサービスを販売する「お店屋さん」のほかに、銀行や警察などこども夢の商店街の運営に携わる「オシゴト」に挑戦できる枠を設けました。

こども夢の商店街の通貨はもちろん「おむすび通貨」です。お店屋さんは、自分のお店の売り上げをおむすび通貨でもらい、オシゴトに挑戦した子どもたちはお給料をおむすび通貨でもらいます。稼いだおむすび通貨はこども夢の商店街の中で使うこともできますし、もちろん提携店でも使用できます。

…といった具合にアイデアをまとめたのち、2013年5月に初めて、名古屋市内にある円頓寺商店街にて「こども夢の商店街」を開催しました。当時の円頓寺商店街は今ほど賑わっていなかったんですが、子どもたちが出店すると、不思議と人が集まってくるんですよね。そうした様子が評判を呼び、「うちでもやりたい」といろんな自治体から声をかけていただけるようになりました。

ーーボランティア活動から事業に切り替えたきっかけは。

自治体との取り組みはほぼ手弁当でおこなっていたのですが、あるとき、大きな企業から見積もりを求められたことが転機となりました。正直、イベントの相場なんて全然わからなかったんですけど、周囲にいた詳しい人に「こういうイベントってどのくらいの金額が適正なんでしょうか」と相談したら、返ってきた答えが自分が思っていたよりも大きくて。こんな額を本当にいただけるのだろうかと疑いながらも見積書を提出したら「この金額で上に通しますね」と言っていただけたんです。これをきっかけに事業としてやっていける自信がつき、2013年に法人化し本格的に事業として取り組むことにしました。

以前は弁理士の会社を経営していたので収入は3分の1以下になってしまったし、妻にも反対されたんですけど(笑)、これは自分がやるべきことだという気持ちのほうが強かったですね。

僕には、本当にちっちゃな頃から社会の不条理に対する怒りのようなものがあって…今振り返ると、こうした事業に向き合うことはたぶん運命づけられていたんだろうなと思うんです。

こども夢の商店街を手掛ける前ーー、以前勤めていた弁理士の会社を辞めて自分の事務所を立ち上げたときの理由もそう。前の会社の上司が不条理の塊みたいな人で、いくら進言しても変わらないから「だったらもう自分の会社をつくって、来てくれた人を助けよう」と思ったのがきっかけでした。

綺麗事に聞こえるかもしれませんが、お金とかは本当にどうでもよくて、社会をよりよくしたいという思いが強かった。それが、こども夢の商店街を事業にしようと決めた一番の理由です。でも本当に、自分で言うのはおこがましいけど、こども夢の商店街ってすごくいいイベントなんです。子どもたちの笑顔を見るたびに、この道を選んでよかったなって心から思います。

日本全国の小学生の半分以上が参加できる基盤を整えたい

ーー「こども夢の商店街」は今や年間15万人もの来場者を集めていますが、人気の秘訣は。

1度参加してくれた子どものほとんどが「また参加したい」と答えてくれています。子どもたち目線では単純に楽しいという理由がほとんどだと思いますが、子どもが本当に楽しみながら学んでもらえるよう、僕たち運営側は大人目線での指導をあえて一切しないことを徹底しています。それは、自ら学び、自ら考え、判断して行動できる力を養ってほしいと考えているからです。

例えば「お店屋さん」の場合は、何を売るか、どんなサービスをするかを子どもたちが自由に考えます。大人は一切関与しないので、繁盛するところもあれば、全然売れないところもある。また、「オシゴト」に挑戦してみたものの、うまくできない子、人の役に立てない子もいます。けれどそれで終わるのではなく、自信をなくしながらも周りに触発され、果敢に再チャレンジする子も珍しくありません

そうして稼いだおむすび通貨には有効期限があるので、子どもたちは稼いだそばからガンガン使います。ですので、こども夢の商店街はいつもめちゃくちゃ景気がいいんですよ(笑)

現在おむすび通貨の提携店舗は全国に約1000店舗あるので、おむすび通貨を持ち帰って、実際のお店で商品を買ったりごはんを食べたりすることもできます。こども夢の商店街は、単なるお仕事体験イベントではありません。自分の稼いだお金で自分のほしいものを買う「社会の一員としての自分」を実感できる取り組みです。自分自身も相手の大人も、働くことでそのお金を受け取っているという、働く意義と経済の根幹を実体験として学べることが最大の価値だと考えています。

ーーこれからの目標は。

まずは47都道府県すべてで年1回以上開催すること。全国の小学生の半数以上が参加している状態を目指したいですね。数だけをこなそうと思えば決して難しくはないんですが、僕たちの想いやビジョンを共有できる人材でなければ、現場を牽引することはできません。ですので今は、目の前の子どもたちに最高の体験を提供することと、組織としての成長のバランスを取りながら、腰を据えて展開していきたいと考えています。

そして、おむすび通貨を手にした子どもたちの「貯め込まずにどんどん使う」というお金のあり方は、僕たちが目指している新しい経済のカタチのひとつです。

僕たちの目標は、日本全国の小学生の半分以上が「こども夢の商店街に参加したことがある」という状態をつくること。そうすると10年後には、日本人の過半数が「おむすび通貨」を使った経験を持つことになる。これは、世の中の価値観に大きな変化を生み出すと考えています。

「価値が減っていく通貨を実際に使って、モノやサービスを交換した」という経験によって、こども夢の商店街に参加した子どもたちには「お金」の本質的な役割についての深い理解が生まれるはず。今、世の中にはビットコインのような新しい通貨も出てきていますが、こども夢の商店街での経験があれば、新しい形の「お金」に対しても、その本質を理解した上で向き合えます。

子どものころの体験って、大人になってもずっと残っているもの。だから未来を支える子どもたちにこそ「お金は本来、交換のための道具なんだ」という感覚を、実体験を通じて理解してもらいたい。それが、将来の社会を変えていく大きな力になると信じています。