INTERVIEW 2019.03.28 UP

自分の「器」を完成させるより、死ぬギリギリまで変化し続けていたい。

maisonette inc.
山本雄平

「やりたいことはいろいろあるけど、なにから始めたらいいか…」。数年前、山本さんに、雑談交じりで相談したことがあった。「まず自分たちのプラットフォームをつくればいいんじゃない?」という彼の答えの延長線上に、このSTLONGpressは生まれた。
だから、インタビューの記念すべき1人目は、山本雄平と決めていた。クリエイター、スタイリスト、飲食店経営、DJ…。いったい、どれが彼の本当の姿なのだろう。どんな視点を持ち、なにを掲げて生きているのだろう。知っているようで、知らない。だから、無性に知りたくなる。それが、山本雄平という人だ。

ノイズや違和感みたいなものを見逃さないこと

改めてお聞きしますが、山本さんの「仕事」ってなんですか?

一言でいうと、「スタイルをつくること」。この業界にスタイリストとして入ったので、商品や店舗のブランディングの仕事でも、その視点を持ち続けています。クライアントからは、とりあえず呼ばれることが多いですね(笑)。「新商品の企画会議に参加してほしい」「来年の予算を組むから意見を聞かせてほしい」とふわふわした段階から。いきなり制作物を提案するのではなくて、「こんなコンセプトで売っていったら?」という「HOW」の部分から関わることが多いです。ブランドや商品の「売り方のスタイル」をつくる。その先に、初めてグラフィックや媒体への展開がある。それが、僕の「仕事」ですね。

その中での自分の「基準」みたいなものってありますか?

いつも「これが正しいのか?」を考えています。この業界にいると、なんとなく疑問に感じることってないですか?「この動画、なにに使うんだろう?」「このパンフレット、どこで配るんだろう?」って。そんなノイズや疑問、違和感になるべく素直でいたい。本当にこれは必要なのか。こっちに予算をかけたほうがいいんじゃないか。そういうことを、雑談の中でクライアントにも素直に言っちゃいます。角が立たない程度に(笑)。そうすると逆に興味を持ってもらえることも多いですね。

いつも頭の中に疑問符がある?プライベートでも?

はい。ずっと消えない。家族も疲れると思います(笑)。「これ、ほんとに要るの?」とか、ずっと言ってますから。

次にMAISONETTEという組織について教えてください。

事業内容としては、主に広告関係のスタイリング、大道具などもつくるので美術、お店や商品のブランディングディレクション、グッズの企画販売。飲食業、古物販売業。ウェディングドレスのブランドも持っていて、ドレスの製作・販売もしています。

MAISONETTEのコンセプトは?

広告と飲食、両方やっているのが、他の会社にはない特色です。いまの時代、「食」と生活は切っても切れない関係。「食べる」というカルチャーを全面に、自社のブランディングをしています。

大切にしていることはありますか?

一度、パンの広告撮影をしたとき、クライアントが同じパンを100個用意してくれたんですよ。ベストの一枚を撮るために。気持ちはわかりますが、残りの99個は破棄になってしまう。それがとても嫌で。ノイズですね。「つくった人の思いを考えると、捨てるのは心苦しい。せめて50個に減らしませんか。その分、僕たちが美しく撮影できるように努力しますから」と提案したんです。さらに「あと1万円予算をいただけたら、残りのパンでランチをつくりますよ」とも。自分たちも飲食をやっているから、そういう提案にも説得力が生まれる。ムダにしたり、捨てなくてもいいやり方って、ちょっと考えれば浮かぶし、そのほうが素敵じゃないですか。そういう姿勢を大切にしています。結局、それがクライアントのためにもなると思う。

最近は、広告の「裏側」も発信できるし、見えてしまう時代ですよね。表も裏も両方できていないとダメということですね。

それが、僕たちが一番やりたいことです。冷えてパサパサしたロケ弁じゃ、いいクリエイティブはつくれない。せめて、僕たちが関わる仕事では、食べる喜びを味わえる現場にしたいと思っています。コンビニの弁当を、カレーのケータリングに変えるだけで、みんなのテンションが上がりますよね。東京から来ているクライアントやモデルも、「名古屋でもこういう現場があるんだね」と驚いてくれました。食でコミュニケーションが生まれて、場の空気もよくなれば、クリエイティブも変わります。

ここが「通過点」でも構わない。胸張って話せる関係でいられれば

ちなみにMAISONETTEの社名の由来って?

同じ建物で、一人ひとりが違う部屋に住んでいる「メゾネット」のような集団をつくりたくて。会社だけど、フリーランスの集まりみたいな。スポーツに例えると、野球じゃなくて、陸上競技かな。この人は走り高跳び、この人は短距離とか。個人競技だけど、ひとつのチームでもあるから、それぞれがベストパフォーマンスをするために、必要なときはお互いフォローし合う。チームワークのための集団じゃなく、個がチームを利用できるようなイメージです。

一人ひとり動きも場所も違うということですね。とはいえ、みんな同じ方向を向くために何かしてることはありますか?

言葉で伝えています。絵でも写真でもいいんだけど、ビジョンみたいなものは、言葉がいちばんしっくりくる。このお店では「日常の中の特別」を提供したいよね、とか。「いらっしゃいませ」じゃなくて「おかえりなさい」のテンションだよね、とか。それを、みんなで共有することは心がけています。

仕事のやり方については?

やってほしくないことは言います。あとは自由。お店のメニューやレイアウトも知らないうちに変わってるし(笑)。新人の子にも、コーヒーの淹れ方とかの作業は覚えてほしいけど、「先輩のまんまやらなくても、自分らしくやればいいよ」と「振れ幅」や「余白」があっていいことを伝えています。

例えば、スタッフが選んだコップが気に入らなかったら?

「なんで、これにした?」と聞きますね。僕、自分の価値観や美学が絶対だとは思っていないです。どんな世界にも「こいつにはかなわないな」と思う人がいる。基本的に自分には才能やセンスがないってコンプレックスもありますから。だから、自分では絶対選ばないものを選ぶ人を見ると「なぜ、ここに行きついたの?」と理由を聞きたくなる。そこに、意志やカルチャーがあるなら、学びたい。自分と20代の若者の感性なんて合わなくても当然だと思っているし。それをなるべく拒絶しないようにはしています。選んだ理由を理解した上で、アリかナシかを判断する。自分の感性がすべてじゃないと思うことは、自分の成長にもつながります。僕の枠の中だけでやったら、僕が飽きちゃう。トップダウンの会社にしたいわけじゃなくて、みんながイキイキしていたほうがおもしろいですからね。

人が辞めていくこともあると思うけど、経営者としてはどう感じますか?

MAISONETTEはひとつの「プラットフォーム」というイメージ。ここが「通過点」でも構わない。永久就職がそぐわない時代、人は辞めていくと思っているし、それをネガティブにはとらえていない。ずっと一緒にがんばりたいけど、それがここでじゃなくてもいい。遠く離れても、会ったときにお互い胸を張って話せる関係性があれば。特に飲食業は、やる気がある人、能力がある人ほど、独立して自分のお店を持てちゃう。だから、うちにいる間は全力でがんばってもらって、こっちも提供できるノウハウは全部捧げるし。それでも、初めてスタッフが辞めたときは1週間ぐらいめちゃめちゃ落ち込みました(笑)。でも、辞められて悲しい子ほど、いまでも連絡とりあっています。

みんな周年パーティーとかのイベントには集まってますよね?

親みたいな感覚です。東京に出ていった子どもが帰ってきたみたいな(笑)。就職って、結婚に近い。「社員は家族のように思うよ」と面接でも言っています。だから、「辞めてよかったです」と堂々と言ってくれるほうが嬉しい。成功している姿を見たいから。

ピンとくるかこないか。自分の直感を信じる

会社でも個人でも、いろいろなことをやってるけど、軸や優先順位ってありますか?

なぜ自分がこの仕事をしているのかはずっと考えています。世の中をよくしたい、おもしろくしたい、いまは埋もれているだれかの背中を押したい。そう思うことが、僕の存在意義。それをどう実現するかの「HOW」の部分は、ひとつに固執する必要はなくて、時代や世の中に合わせて変化させればいいと思っています。だから、自分の守備範囲ではないこともどんどん提案します。映像チームと全然畑違いの仕事をしながら、「オレ、なにやってるんだろな?」と可笑しくなることもあるけど。

「タイミング」って、狙ってますか?

狙えてないです。よく、いつタイミングが訪れてもいいように、準備しとけって言うけど、準備はしてない(笑)。そのときピンとくるかこないか。ピンとくる自分を信じたい。よさそうだなと感じたら、やってみて考えればいいと思っている。万事がその調子。

ピンとくるかどうかは、どう嗅ぎ分けてる?

直感でしかないです。あるとしたら、「一緒にやる人に情熱があるかどうか」。例えば、先日もAという商業施設から「新店を出しませんか」という話があって、「資料送っておきますね」と電話で言われても全然響かなかった。一方で、Bという商業施設の担当者は、うちの店を全部回って食事してくれて、MAISONETTEのホームーページも僕のインスタもFacebookも見て、仕事への取り組みに共感してくれた上で声をかけてくれた。それなら、ぜひ会いましょうとなりますよね。実際、情熱がある人たちで、とても刺激をもらいました。なるべく「温度」のある人と仕事がしたいですね。

余談ですけど、洋服も直感で買います?

そうですね。矢野さんも職業がらたくさんデザイン見ていると思いますが、僕も普段からめっちゃ洋服をチェックしているんです。でも、デザインも洋服も、ピンとくるもののほうが少なくないですか?だからピンときたら買う。値段もトレンドも関係なく。でも、自分のものより、「これ、あの子に似合いそう」ってスタッフに買うことが多いです。向こうは、ぽかんとしてますけど(笑)。自分が着るより、周りを変えるほうがおもしろい。それがきっかけで、ファッションやインテリアへの興味が膨らんで、「お気に入り」を見つける楽しみを感じてくれたら嬉しいです。

優しいなぁ(笑)。トレンドは意識してますか?クリエイターとしてやりたいこととトレンドとの関係性というか。

トレンドとはなにか?をすごく考えた時期があって。でも、結局、僕の中でのトレンドは、自分がいまおもしろいと思うことなんです。おこがましいかもしれないけれど、「今年、これが着たいな。あの色いいな」と感じるものが、そのあときっちり流行ってくる。ピンとくるのが、社会より、流行より早い。そういう自信はありますね。もちろん、それなりにメディアやニュースを見て情報収集はしています。でも、それを鵜呑みにはしない。自分がいいと感じるものと世の中からの発信を擦り合わせて重なるものが、僕にとってのトレンドかな。

現実を直視する、まずやってみる、そのまま演じ切る

「好きなことが見つからない」、「嫌いなことを切り捨てる勇気がない」、「好きなことがあっても仕事にする術が見つからない」って、葛藤している若者も多いと思うんです。みんなが、山本さんみたいな自分らしい生き方をするのは難しいかもしれないけど、もし、彼らにアドバイスをするとしたら?

3つあります。まず、夢は現実の先にしかないということ。今日の先にしか、明日はない。いまのままのあなたなら、いまのままです。だから、まずは現実を直視して、夢のためにどんな現実を積み重ねていけばいいかをリアルに考える。ロマンチストとリアリストは、僕にとっては同義語です。もうひとつは、矢沢永吉の言葉です。やる人はやる、やらない人はやらない。「どうやったらスタイリストになれますか?」と学生に質問されたことがあって。「とりあえずやってみたら?」て答えました。毎日、友達のコーディネートを考えて写真を撮り続けたら、本一冊つくれる。それを名刺代わりに売り込みに行けば、仕事がもらえるかもしれない。その職業でメシを喰っていきたいなら、なにをしたら世の中に必要とされるかを考えて、まずやってみること。スタッフにも、「やりたいことあったらどんどん言って」と伝えています。例えば、それに100万円かかるとして、個人では難しくても会社としてなら取り組めるかもしれないですよね。失敗しても、いい。なぜ失敗したかが分かっただけでも、前に進んでいるということだから。最後は、演じ続けることです。なにかを始めて、多少うまくいかないことがあっても、ある程度のところまでは、「これは自分に向いている」と演技を続ける。それが2年続いたら本物になるって誰かに聞いて、確かにそうだよなって。自分もスタイリストとかよくわからずこの世界に入って、スタイリストを名乗って、演じ続けるうちに、世の中がスタイリストとして認識してくれるようになった。なりたい自分があるなら、その理想像を演じ続けてみるといいです。どんな仕事でも、「行動」って大切です。人が動いて、「働く」になるのだから。

PROFILE

Yuhei Yamamoto

1980年愛知県生まれ。大学在学中に世界10カ国を旅する。卒業後、さまざまな経験を経て、ファッション・インテリアのスタイリストとして事務所に所属。2007年に独立してフリーランスへ。2010年からは、衣装、小物製作からスタイリング、デザインまでこなす集団、MAISONETTEとして活動。同年、株式会社MAISONETTE設立。現在は、広告・CM・カタログなどのスタイリング・ディレクションをはじめ、TT” a Little Knowledge Store、Maison YWEなどの飲食店、ギャラリー&ショップ THINK TWICE、移動型企画店舗TENTO、フリーペーパーSTANDARD MAGAZINEなどを運営。

編集後記

山本さんとは、普段仕事で顔を合わせることが多いので、割とリアルタイムで活動の内容やそのコンセプトなどは聞かせてもらうことが多い。それでも追いきれない進化の速度の持ち主で、その活動の範囲もどんどん広くなっているイメージだった。そんな中の最初の質問の回答が本当に素晴らしかった。ブレない人だと今回も感じたし、クリエイターとして悔しくもあった。自分の役割や武器をこんなに潔く整理できているからこそ、あの行動力、あのスピード感なんだ、と。そして、遅くても一年以内にまた インタビューする必要があることを確信した。

インタビュアー:
矢野 まさつぐ LENS ASSOSIATES
フォトグラファー:
高坂 浩司 OFFICE MUZZLE JUMP
コピーライター:
ヤスダ ユミカ