INTERVIEW 2023.04.13 UP

空間デザインのコンペにてブランディングを提案。「ブランドで選ばれる会議室」に。

【クライアント】東邦不動産株式会社|Tsudoico NAGOYA Sta. EAST
【プロジェクト詳細】貸し会議室のブランディング

企画立案|空間ディレクション|ツール制作|プロモーション プロジェクト詳細はこちら


2020年4月。名古屋駅エリアに、貸し会議室「Tsudoico(ツドイコ) NAGOYA Sta. EAST(ナゴヤステーション イースト)」(以下 Tsudoico)がオープンしました。Tsudoicoを手掛けるのは、東邦ガスのグループ会社である東邦不動産。栄と今池にあるガスビルで長らく貸し会議室事業を手掛けてきた同社にとって久しぶりとなる新しい会議室の開業プロジェクトは、LENS ASSOCIATES(レンズ アソシエイツ、以下 LENS)を含む5社コンペからスタートしました。

(右)東邦不動産株式会社 不動産事業部 企画管理部長 石川健太さん。プロジェクト発足当時より、LENS ASSOCIATESと二人三脚でTsudoicoオープンの準備を進めてきた(左)LENS ASSOCIATES アートディレクター 原口宗大。Tsudoico全体のディレクションを担当

【目次】

  1. プロジェクトの方向性を決めた、予想外のプレゼン
  2. プロジェクトの成功で「チャレンジできる会社」との雰囲気を醸成できた
  3. 困ったら何でもでてくる「ドラえもん」のような存在
  4. 名駅を足がかりに、Tsudoicoブランドを広げていきたい

プロジェクトの方向性を決めた、予想外のプレゼン

原口:石川さんと久しぶりにリアルでお会いできてうれしいです。本日はよろしくお願いします。

石川さん(以下 石川):私も楽しみにしていました。今日は、コンペの際に提出いただいたLENSさんのプレゼン資料も持ってきたんですよ。

原口:懐かしいです!わざわざありがとうございます。当時を改めて振り返ってみると、Tsudoicoのコンペに参加する企業のなかでLENSだけ浮いていましたね(笑)

石川:たしかに…(笑)。ほかの4社は既存の不動産賃貸事業でつながりがある会社でしたし、ビルの内装を専門に手がけている企業がほとんどでしたので、当時は私を含むプロジェクトメンバーのほとんどが「LENS ASSOCIATESって何の会社?」と思っていました。
実のところ、名古屋駅前で新しい貸し会議室をオープンすることは決まったものの、「どんな会議室にしたいか」というイメージが私たちの中にあったわけではなかったんです。一般的な貸し会議室は長年手掛けているし、せっかくならば違うものにしたいけれど、具体的なプランは各社の提案を聞いてから考えましょうと思っていました。
そうして迎えたコンペ当日、トップバッターのLENSさんのプレゼンが始まってすぐに、会場全体の雰囲気が変わったことを今でもよく覚えています。
当初私たちが掲げていたのは「新しい会議室をつくる」というゴールのみで、ネーミングやロゴデザイン、プロモーションについては会議室の概要が決まってから着手すればいいと考えていました。けれどLENSさんは「この会議室がブランドとして認知されるためにはコンセプトと一貫性が重要」と、包括的な提案をしてくれた。それまで、「ブランディング」という言葉を意識したことはありませんでしたが、その場にいたほとんどの人が「このプロジェクトが実現したら、名古屋の新しい会議室として確実に差別化できそうだ」と感じたと思います。他社さんの提案も素晴らしかったのですが、少し物足りないと感じてしまうほど。それくらい、LENSさんの提案はインパクトがありました。

原口:そうだったんですね。

石川:改めて提案書を見返してみても、多くの案をそのまま採用しているんですよね。本当に、あのプレゼンがプロジェクトの方向性を決定づける大きなきっかけになったと思っています。

当時のプレゼン資料を見ながら話に花を咲かせる石川さんと原口

テーブルとチェアは、ルームによってさまざま。LENSと関わりの深いオリバーの製品をセレクトし、LENSのオフィスにチェアを持ち込んで「試座会(しざかい)」を実施。石川さん含むプロジェクトメンバーで座り心地を確かめてから採用した

原口:とはいえ、他社と比較して弊社の実績が頼りなかったのも事実かと思います。プロジェクトを進めるうえで不安はなかったですか?

石川:最初からまったくありませんでした!と言えば嘘になりますが(笑)、実際にプロジェクトがスタートしてから不安を感じたことはありません。むしろこちらの回答が遅れてしまうことが多くご迷惑をおかけしたかと思いますが、いつもスピーディーに対応していただき感謝しています。
Tsudoicoは新しいビルへのオープンだったため、内装工事に関しては大手の建設会社とやり取りをおこなうシーンが少なくありませんでした。そのなかで印象に残っているのは、ビルの担当者から「Tsudoicoの設計事務所とのやり取りは、ほかのフロアと比べていちばん進めやすい」と言っていただけたこと。貸し会議室という性質上、一般的なオフィスとは異なる設備やイレギュラーな対応が必要だったのですが、ひとつひとつの課題に対して的確にレスポンスを返されていました。

原口:空間デザインと設計は、弊社代表の矢野を中心に、外部パートナーの設計事務所 二ミリデザインさんにもご協力いただきました。力のあるパートナーとともにひとつのプロジェクトに向かえる点もLENSの強みのひとつだと思っていますので、ポジティブな評価をいただけてとてもうれしいです。

プロジェクトの成功で「チャレンジできる会社」との雰囲気を醸成できた

原口:ブランディング提案をさせていただく機会は多いのですが、プロジェクトが進むにつれ当初の内容とだんだん変わってしまうケースは少なくありません。Tsudoicoが当初のコンセプトから外れることなくオープンできたのは、石川さんはじめ東邦不動産のお力が本当に大きいです。

石川:「いいものができる」と確信していたから、私も自信を持って進められたのだと思います。例えば「天井の装飾はなくてもいいのでは」と予算を渋られたこともありましたが、「コンセプトを実現するうえでは不可欠なんです」と説得したり、ユニフォームや備品ステッカーをTsudoico仕様に統一したり。本当に必要だと思えなければ、どこかで手を抜いていたかもしれません。

Tsudoicoのロゴがプリントされたユニフォーム。決定までに、ネーミング32案、ロゴデザイン20案を提案。

原口:ネーミングやロゴデザインを決める際、東邦不動産のみなさんとLENSオフィスで意見を交わした日々がなつかしいです。Tsudoicoに関して、社内の反応はいかがですか。

石川:LENSさんへの発注が決まり、プロジェクトがスタートした当初は「本当に実現できるの?」と心配していた人もいたと思います。どちらかと言うと保守的な社風を持つ弊社において、Tsudoicoプロジェクトはかなりチャレンジングな内容でしたから。今も、利用者さんや取引先から「Tsudoicoって東邦不動産が運営しているんですか!?」と驚かれることは珍しくありません(笑)
だからこそ、Tsudoicoが実現したことによって、社内に「新しいことをやれる会社なんだ」との印象を与えられたように感じています。「チャレンジできる会社」との雰囲気を醸成できたことは、Tsudoicoプロジェクトの成果のひとつだと思っています。

原口:「ブランディング」に対する理解も深まっている印象がありますよね。

石川:それも大いにありますね。別の事業部からリニューアルやプロモーションについて相談を受けることがあるんですが、課題点のみを見るのではなく、全体的な視点で話してくれる人が増えたように思います。そして、そうした担当者へはすぐに原口さんを紹介するのが私の役目です(笑)

困ったら何でもでてくる「ドラえもん」のような存在

石川:Tsudoicoがオープンしてからまもなく3年が経ちますが、原口さんにはずっとお世話になりっぱなしで。運営してみてから気づくこともたくさんあって、「あれが足りない」「これはあったほうがいい」と思いつくたびに助けていただいています(笑)

原口:それは本当に、めちゃくちゃありがたいと思っています。やはりブランディングにおいて「統一感をキープすること」はとても重要なのでちょっとしたことでも遠慮なく相談していただきたいですし、頼っていただけるからこそ僕たちもやりがいを持って取り組めています。

各扉上部のサインは、オープン直前のチェックで原口が「部屋が見つけづらいな」と思い急遽設置。違う大きさのサンプルをつくり、ベストなバランスを吟味した。

ルーム番号やドアノブ上の「PUSH」のカッティングシート、出力紙を挟む案内プレートの位置に至るまで、すべて原口が監修

もちろん紙ツールも制作。クラフト紙の全面に白いインクを乗せることでニュアンスのある仕上がりに

石川:実は私のなかで、原口さんはドラえもんのような存在なんです。言えばなんでも出てくる!的な(笑)。困っていること、よりよくしたいことに対して、いつもしっかりと解決策を提案してくれるので本当に頼りにしています。

原口:まさかドラえもんと思われていたとは(笑)。ありがとうございます、すごくうれしいです。クリエイター冥利に尽きる褒め言葉です。

名駅を足がかりに、Tsudoicoブランドを広げていきたい

原口:やっとコロナも落ち着いてきましたが、ご状況はどうでしょうか。

石川:開業前には半年先まで予約が埋まっている状態でしたが、オープンと同時にコロナ禍となり、この3年間の利用者数は当初の想定を大きく下回っているのは事実です。1年先の予約もすぐに入っていたので、いいスタートが切れそうだと期待していたぶん落胆は大きかったのですが、そうしたなかでも、Tsudoicoをわざわざ選んでくれる利用者さんとの出会いもありました。例えば、東京の広告代理店が撮影に使いたいと連絡をくれたり、群馬のレザー職人さんがポップアップショップを開いてくれたり。著名人を呼んで講演会を開催したケースでは、隣室を控室として利用できるつくりがとても役立ちました。

ルーム同士がつながっている設計を提案。単独でも、イベント時の控室としても利用できる

石川:昨年より徐々に需要が戻ってきており、おかげさまで、ほかの会議室と比較検討のうえTsudoicoを選んでくださるケースが多いです。周辺よりも少し上の価格設定にもかかわらずこの場所を選んでいただけているのはTsudoicoというブランドに価値を感じていただけているからだと自負していますし、「参加者に喜んでほしい」「おしゃれな場所で開催したい」など具体的な要望を持つ利用者さんにご指名いただいている印象があり、うれしい限りです。

エントランスすぐに設けたホワイエ。利用者が休憩時に使用しているほか、記念写真スポットとしても人気

原口:今後の展望をお聞かせください。

石川:まだ構想段階ですが、ドロップインなど個人での利用プランを新設したいと思っています。また、Tsudoicoプロジェクト発足時から掲げていた「Tsudoicoというブランドを広げていきたい」との目標も諦めていません。まずはこの場所を軌道に乗せて実績をつくり、第2のTsudoicoの足がかりにできればと。ガスビルなど既存の貸し会議室をTsudoicoにリニューアルする案もおもしろいかもしれません。
これからも原口さんにはいろいろ相談させていただくと思いますが、よろしくお願いします。

原口:こちらこそよろしくお願いします。本日はありがとうございました。