INTERVIEW 2023.09.05 UP

写真ひとつで、製品の魅力はさらに高まる。もっと、LENSならではの提案を。

【クライアント】ブラザー工業株式会社
【プロジェクト詳細】 部誌 | プロダクトカタログ | その他各種ツール

今回、LENS ASSOCIATES(以下 LENS)にお越しいただいたのは、ブラザー工業株式会社 総合デザイン部 コミュニケーションデザイングループ 増田貴昭さん。インハウスデザイナーとしてデザインやディレクション業務に立つ傍ら、後進の育成も担当されています。

ブラザー工業さまとのお取り引きのきっかけは、新プロダクトのPRに使用する写真素材の撮影ディレクションをご依頼いただいたこと。以来、8年以上にわたってさまざまな撮影に関わらせていただくとともに、カタログや冊子、各種ツールのデザインも手掛けてきました。

「撮影への信頼感がダントツです」と評してくださる増田さんに、これまで聞きたかったことをいろいろうかがいました!

(左から)LENS ASSOCIATESの写真・映像部門SUPER STLONG SHOOTINGの高坂浩司、LENS ASSOCIATES アートディレクター 原口宗大、ブラザー工業株式会社 増田貴昭さま、LENS ASSOCIATES カスタマーパートナー 橘春希

【目次】


新しいイメージを具現化してくれそう、との期待感でLENSに依頼

原口:LENSへの最初のご依頼は、2016年秋に発売されたラベルライター「ピータッチキューブ」の販促物に使用する写真素材のディレクションでした。ブラザー工業さんは当時すでに多くのカメラマンさん、制作会社さんとのお付き合いがあったと思いますが、LENSを選んでいただいた理由ってなんだったんでしょう。

スマホの専用アプリでラベルデザインを作成できる「ピータッチキューブ」。2016年秋の発売と同時に大きな話題を呼び、シリーズ3台を含む販売台数は、2023年2月末時点で50万台を突破

増田さん(以下 増田):「スマホと接続して使うラベルライター」という商品コンセプトは当時非常に斬新で、従来のラベルライターとは見せ方を大きく変えたいとの思いがありました。

ラベルライターは、小さな子どもを持つパパママ世代や、オフィス需要がメインです。そのため、従来の商品の打ち出し方は、具体的な活用法や利便性をアピールしているものが多かった。あくまでも「文具」のジャンルなので、おしゃれさよりも親近感を抱いていただけることを意識していました。

ピータッチキューブは、幅広い表現力とデザイン性の高さが強みです。ラベルライターの新たな利用シーンを提案するとともに、これまでのターゲットにこだわらず「自分らしいライフタイルを実現したい人たち」に響く世界観を表現したいと考えました。そうしたときに、少し前に知り合ったLENSのことを思い出し、自分がイメージしているものを実現してくれそうだと感じて声をかけさせていただきました。

原口:増田さんはいつもゴールイメージを明確に持っていらっしゃるので、最初にお話をいただいたときからすごく納得感がありました。ロケ地やモデルの選定もお任せいただけたので、プレッシャーもありましたがやりがいも大きかったです。この頃は、どこかに出かけるたびに「ロケ地にどうだろうか」とチェックするのがクセになっていました(笑)

ピータッチキューブの冊子。LENSのオフィスや知人のカフェ、美容室もロケ地候補に。スタイリングもすべてLENSディレクションのもと進行

増田:撮影前の打ち合わせも相当な回数を重ねましたよね。ロケ地の選定をはじめ、事前準備や当日の段取りなど、ディレクションがきちんと機能していないと撮影を成功させることは難しい。原口さんは「どういった目的でこの写真を撮るのか」をしっかり理解して動いてくれるので、安心して任せられます。

原口:ピータッチキューブはほかにも、アプリ内で使用するデザインなども担当させていただき、非常に楽しい案件でした。屋内外、さまざまなシチュエーションでの撮影だったので、僕自身も勉強になることがたくさんありました。

撮影現場は「一緒にいいものをつくりあげている」感覚

増田:あとはやっぱり、僕は高坂さんの写真が好きなんですよね。なかでも製品写真については絶大な信頼を置いています。

橘:高坂さんも、ブラザー工業さんの仕事はいつも楽しそうな印象です。

高坂:おかげさまで、いつもやりがいを持って取り組めています。ブラザー工業さんの製品は大きなマシンが多いのでそのぶん難易度も高いんですが、増田さんのこだわりに応えるためにいつも必死です(笑)

増田:いつもすみません(笑)。高坂さんなら難しいオーダーも叶えてくれるだろうなと期待しちゃうので、ついつい要求が上がってしまうんですよ。

増田さんが、カメラマン高坂に信頼を置くきっかけとなった1枚。光と影による濃淡と、マシンの輪郭の見え方にこだわった。合成ではなく、ほぼ一発撮りで実現

高坂:「パーツだけ切り出して合成しますか」とたずねて、「いや、合成なしで撮りたい」と言われたら「じゃあやってやろう」となりますよ、カメラマンなら(笑)

増田:もちろん、本当に無理なら妥協も仕方がないとの気持ちはいつもありますが、できたらいいなと思って聞いてみると、やってくれるから(笑)。

あと、こだわりを持っているからこそ自分が納得したカットだけシャッターを切るカメラマンさんもいるじゃないですか。高坂さんもめちゃくちゃこだわりがあるタイプなのに、たくさん話を聞いてくれるし、いろいろ試してくれる。そこがすごく助かってますし、尊敬しています。

「高坂さんとの撮影は時間が過ぎるのがあっという間ですね」(増田さん)

増田:こちらからの要望にただ応えるだけではなく高坂さんからも提案してくれるので、「写真撮影をお願いしている」というより「現場で一緒にいいものをつくりあげている」という感覚がありますね。

海外のプロダクト賞にエントリーしたときにも、改めて写真の力を感じました。大型の工業製品は実物を見てもらうことが難しいので、写真で判断するしかありません。 ブラザー工業では「iF DESIGN AWARD 2023※」において、初となる工作機械の受賞を果たしたのですが、写真の影響も大いにあったのではと感じています。

※ドイツのiF International Forum Design GmbH(iFインターナショナル・フォーラム・デザイン)によって1953年に設立された国際的なデザイン賞。ブラザー工業の受賞件数は今回を含めて累計88件となり、2008年から16年連続受賞となった。

「LENSはこれがいいと思っている」と、強気な提案を期待したい

原口:デザインをご依頼いただく機会も増えてきましたが、増田さんの率直なご意見をいただきたいです。

増田:本当はもっとたくさんお願いしたいという気持ちもあるんですけど、ちょっと気になる点もあり、悩みどころですね。

橘:せっかくの機会なのでぜひ詳しくうかがいたいです。

増田:これはもう仕方ないことだとは思うんですが、やはり我々インハウスデザイナーと比較すると「ブラザー工業という会社について考えている時間の総数」が違う。だから、それぞれの案件に対するコンセプトだったりとか表現の方向性だったりとかは、こちら側から示したほうがいいのかなと。

原口:過去の案件でそう感じさせてしまったということですよね、すみません。差し支えなければ詳しくフィードバックいただきたいです。

増田:あくまでも僕個人の意見なのですが…。

これはぜひLENSに依頼したいと、とあるプロジェクトのキービジュアル制作をお願いしたことがあったかと思うんですが、初回の提案で出してくれたラインナップが多すぎたことに、個人的には違和感を感じました。

たくさん考えてくれたからこそだとも理解しているんですが、LENSに期待していたのはそこじゃないなと。数案、なんならひとつの案に対して「僕たちはこういう考え方で、絶対にこれがいいと思っています」と提案してほしかった。

原口:期待してもらっているとわかっていたのに強気で提案できる自信がなく、選んでほしいという甘えが出てしまいました。ブラザー工業という企業、ブラザーというブランドに対しての理解度や解像度が足りていなかったからですね…申し訳ありません。

橘:ちなみに、増田さんが考える「ブラザー工業らしさ」とはなんでしょうか。

増田:開発、営業、販促などさまざまな立場の人間がいますが、みんな「お客様の視点に立って考える」ことを非常に大切にしていると思います。企業風土を言葉であらわすならば「誠実」でしょうか。そうした姿勢をどう表現するかが、僕たちデザイナーに求められていることだと感じています。

コンセプトからの立案や、デザインのパワーが必要な仕事はけっこうあるので、改めてLENSさんにお願いできたらうれしいですね。

原口:ぜひリベンジの機会をいただきたいです。

増田:あとは最近、社内における撮影ディレクションのスキルをもっと高められたらと思っているので、今後とも原口さんや高坂さんのお力を貸していただけたらうれしいです。

原口:まだまだ僕も勉強中ですが、お伝えできることがあれば喜んで。

増田さんのご紹介でブラザー工業さんの別の部署ともお仕事させていただく機会も多いのですが、家庭用・オフィス製品から産業用製品まで、広く関わらせてもらっていることが感慨深いです。手厳しい意見をいただけたことにも本当に感謝しています。本日はありがとうございました。